あひるの仔に天使の羽根を
 

「お前は?」


玲様の堅い声は依然変わることなく。


「オレが何処に行こうが、オレの勝手だ。オレに一切関わるな」


そう一方的に吐き捨て背中を見せて歩き出す久遠に、突如すっと目を細めた玲様は声をかけた。


「……ねえ、首、拭いた方がいいよ?」


不意に久遠の足が止まる。


「……何故?」


振り向きもせず。


「血が付いてる」


久遠はそれに答えず、再び歩き出して姿を消した。


「あ~ッ!!! 気に喰わねえ!!!」


煌の不機嫌さは甚大で。


玲様は暫し久遠の後ろ姿を目で追っていたけれど、やがて私の顔を覗き込んできて、強ばった声で尋ねた。


「……桜、櫂に何があった?」


私は櫂様の状態を言葉で表現出来なくて。



「まず……お戻り下さい。そして、ご自分の目で櫂様をご確認下さい。桜は…これ以上言えません……」


そう――


唇を噛み締める。


沈んだ斜陽が……目に痛かった。





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