あひるの仔に天使の羽根を
「お、おい櫂。芹霞だぞ!?」
俺は思わず引き止めてしまう。
「判ってるよ、今更なんだよ?」
まるで俺を詰るかのような、切れ長の目を遣してきた櫂。
俺は――変なこと言ってねえ。
何で芹霞を突き放すんだ?
突き放してられるんだ?
まるで――
どうでもいいっていうように。
ありえねえ。
お前絶対おかしいって。
だけど。
「俺も寝てくる。話は明日にしてくれ」
櫂は、上げた片手をひらひらさせてさっさと出て行ってしまった。
誰も声をかけられる雰囲気じゃねえ。
玲も桜も、険しい顔をしたままだ。
そんな時、ソファの裏側でもぞもぞと動く気配を感じれば、遠坂が芋虫みたいに這いつくばって出てきた。
櫂が居ないのを忙しく動く目で確認すると、大きな溜息をついて床にへたり込んだ。
遠坂のやつれ具合が半端じゃねえ。
「は、葉山……何とか邪魔…し続けたからな。睨み付けられて、どやされて、それはそれはもう酷い扱いを受けて、やっと夜時間になって荏原さんが強制連行してくれたと思うと、紫堂の欲求不満爆発。暫し生きた心地しなかったけれど、皆帰ってきてくれたら安心だ。頑張った甲斐があったよッ!!!」
何だか意味不明な言葉を吐いて、それでもやり遂げたというその清々しい表情に、
「如月!!! ボクは殉死してないからッッッ!!!」
思わず遠坂の前にしゃがみ込んで拝んだ俺に、怒声が飛んだ。