あひるの仔に天使の羽根を
走り去る芹霞。
俺は反射的に芹霞を追いかける。
名を呼べど振り返らねえ。
突き当たりの角を曲がったら――
芹霞を見失ってしまった。
俺も思った以上に動揺しているらしい。
まだこの建物の何処かにいるはずだろうが、芹霞の気配を掴めねえ。
「……マジかよ……」
俺はずるずると壁に凭れた。
俺もどうしていいか判らねえ。
櫂は――
須臾を見ている時以外はいつもの櫂で。
他におかしい処なんか何もねえ。
むしろ、だからこそおかしいのかも知れないけれど、どうすれば櫂が元に戻るか判らねえ。
そしてはたと思う。
もし櫂が元に戻ったとしたら。
それこそ、また俺は窮地に立たされる。
芹霞を手に入れる為には。
俺にとっては今のままの方がいいのかも知れねえ。
だけど。
判るんだよ。
あいつ、泣いているんだ。