あひるの仔に天使の羽根を
 

思わず手を弛めれば、解放された女は床にへたり込んで、げほげほ咳を繰り返す。


「ふう。1回抱いただけでどうして毀(こわ)れるかな。

逃げ出すなよ、全く。ほら、合間ならまた相手してやるから、そいつに絡むな」


「早く……しよう?」


もう唖然だ。


1回で…何だって?


久遠は、本当に面倒くさそうに女の腕を掴んで引き摺った。


すれ違いざま、久遠は俺に1つのドアを指差す。


それは久遠が出てきたドアで。


そちらに目を配れば、薄く開いたドアから女の泣き声が聞こえてきて。


芹霞だと思った。


「お前…手を出してねーよなッ!!!?」


俺の頭の中には、"1回で…"がぐるぐる回る。


「まさか、泣いてる芹霞に……!!!」


「頼まれたって御免だね、あんなしょぼい女」


妖麗な顔が嫌悪に歪む。


「……芹霞は、こんな女より!!! お前の妹よりも!!! そこらへんのアイドルなんかよりも、何倍も何倍も綺麗だ!!! 2人でいて手を出さない男はおかしいッ!!! 絶対おかしい!!!」


芹霞は"あんなしょぼい女"と卑しめられる女じゃねえ。


そう豪語した俺だけど、


「お前さ……」


久遠は、心底呆れたような声を出してきた。


「そんなにオレに抱かせたかったの、せりを」


「違うッッッ!!! つーか、"せり"って呼ぶなッ!!!」

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