あひるの仔に天使の羽根を
 
「凄く……判り易いね、お前…。その歳でそこまで真っ赤になって、やることはやってんじゃ…詐欺だよね…」


その声で俺は我に返り、久遠を睨み付けると、芹霞の居る部屋に走った。


「芹霞!!!」


俺の大きな声に、ベッドに腰掛けて泣いていた芹霞は顔を上げた。


すげえ涙の量。


赤く腫れた瞼。


凄く心が苦しくなって、俺は芹霞を抱きしめた。


芹霞はされるがままだったけれど、やがて俺の胸の中で嗚咽を漏らした。


芹霞の心が言葉で俺に向けられることはなかったけれど、だけどこの温もりから、芹霞が何を考えているのか判っちまう。


本当、幼馴染って辛いよな。


相手が例え、自分にとって嫌なことを考えていようと、だけど哀しそうにしていたら放っておけない。


他人のフリなんて出来やしない。


あやすように、芹霞の背中をポンポンと軽く叩いてやると、芹霞は更にぎゅっと俺に抱きついてくる。


切ないよな。


櫂のことを考え、櫂のことだけ思ってる芹霞。


その中に俺は入れないのかな。


そう思ったら――


「なあ……俺じゃ、櫂の代わりは出来ねえか?」


思わずそう言葉を零していて。



「お前を構成する世界に、俺って入ってねえのかな?」



芹霞からは返答がなく。



「櫂に求めている永遠……

俺に求めてくれよ」



俺は潰すくらい強く、芹霞を抱きしめた。

< 733 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop