あひるの仔に天使の羽根を
その時、ノックの音が鳴り響いて。
「姉さん……いる?」
恐る恐るといったように入ってきたのは、大きな鼻をした少年。
年は私とそう変わらないのでは無かろうか。
"姉"
宴の時最後に出てきた久遠の弟…彼か。
「千歳、お下がりなさい」
姉の声は、完全な拒絶で。
顔をも見ずに、背中だけで千歳と呼ばれる弟を弾き飛ばそうとする。
「あ…ごめんなさい。母さんが、明日の打ち合わせしたいと…」
「そんなの荏原に言えばいいでしょう!! でしゃばらないで!!」
途端に悲しみに歪む弟の顔。
「須臾…。弟だろ? そんな言い方はよくないぞ?」
そう櫂様が苦笑して、仲裁に入ろうとするが、
「そんな醜いもの私はいらないわ。やめて、櫂。千歳に触れれば、貴方の美しさが穢れてしまう!!」
何とも理解不能な言葉を須臾は吐いた。
「千歳、櫂から離れなさいッ!!!」
金切り声を上げた須臾に、千歳も櫂様も動きを止めた。
「……お兄様が来てくれたらよかったのに」
怒りを込めた鋭い口調に、千歳の顔は俯いていく。
「用は判ったから、さっさと消えて!!」
それは憎悪のような拒絶。
消える千歳。
閉められるドア。
思わず私は、千歳を追いかけた。