あひるの仔に天使の羽根を
「具合……よくなったんですね」
足を止めた千歳は、激しく潤んだ目でこちらに振り返る。
優しい、性分なんだろう。
「紫堂さん、とても心配してました。よかったです」
決して、"美貌"とは言えない。
須臾や久遠と同じ血を引くということは信じ難い。
だけど、
「……ありがとうございました」
明らかに、彼らより人間味があり安心出来る。
私の謝辞に、千歳は真っ赤になって笑った。
その赤さは、まるで馬鹿蜜柑のようだ。
「須臾……さんの態度はいつもああなんですか?」
単刀直入に尋ねると、千歳は顔から笑みを消す。
「ええ、お見苦しい処をお見せしてすみませんでした」
その顔は、"現在進行形"で酷く傷ついていて。
そして静かに問われる。
「紫堂さんは、姉さんを"永遠"に選ぶことを了承されたんですか?」
私は頷く代わりに、千歳から顔を逸らした。
「儀式が始まれば、…紫堂さんの覚悟次第では、もう紫堂さんは貴方方の元に戻りません」
そんな堅い声に、私は千歳の視線を合わせた。
「それは昔から変わりない」
その言葉は、私を驚かせた。
「…櫂様以外に、そんなことがあったんですか?」
儀式は。
須臾の儀式は、初めてのものじゃなかったのか。
その儀式に、櫂様が必要なんじゃないか。
千歳は、その問いに曖昧に笑うばかり。