あひるの仔に天使の羽根を

・微動

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煌は心配性だ。


何度大丈夫と笑って見せても、あたしを一人にしたくないらしい。


久遠の部屋を長く使うわけにもいかず、部屋を出て気分転換にぶらぶら歩こうものなら、必ず煌はあたしの隣に立って、手を握って黙々と共に歩く。


目に鮮やかな橙色は、昔からいつも隣にある。


そして反対隣に漆黒色があって初めて、あたしは心身共に安定感を保ててきたのだと気づかされる。


片方が永遠に欠けたことで、あたしは底知れぬ空虚感と不安定感に苛まれ、気を弛めれば、奈落の底にがらがらと崩れ落ちていきそうな状態だ。


煌は昔から、感情に疎い割には、特定の人物だけに対しての動物的勘は鋭くて。


あたしより先に、あたしの異変を感じ取る部分があるから。


心が闇に屈しそうになる度、煌は何も言わず…こちらに目も向けずして、ただ繋いだ手を強く握って、あたしを闇から引き上げてくれる。


煌は決してあたしを見捨てはしない。


櫂にとって幼馴染以下となってしまっても、きっと煌だけはあたしの傍にいてくれるだろう。


今はそれに縋りたいと思う。


あたしは強くない。


一人では生きていけない。


櫂が居ない人生なんて考えてなかったから、余計弱くなる。


どれだけ櫂に依存して生きてきたかを思い知らされる。


だけど。


同時に、煌が居ない人生も考えられない。


それでも。


あたしは煌を独り占め出来る立場になく。


煌だって、櫂の居ない人生は考えられないはずで。


そして。


櫂だって、煌のいない人生は考えていないはずだ。


例えあたしは切り離せても、煌は手元に置きたいはずだ。


それが、櫂にとっての煌とあたしの違い。


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