あひるの仔に天使の羽根を
「あたしは大丈夫だから。早く櫂の処戻って、仕事して? あんたは櫂の護衛なんだから」
「櫂なら、桜がいるから平気だ。俺は櫂より、お前の傍に居たい」
「……煌、心配してくれるのは嬉しいけど、桜ちゃんだって本調子じゃないんだし…、あたしと櫂がこんなになったからって、あんたまでもが櫂に距離取ることはないんだよ? 櫂はあんたには普通っぽいし」
すると、煌は真顔であたしを見つめてきて。
「…なあ、櫂がどんなに変貌しても、櫂に対しての尊敬の念は捨てられねえし、あいつの行く末見届けたいと思ってる。櫂の護衛は、あいつからクビを言い渡されねえ限り続けるつもりだ。
だけど――」
煌は悔しそうに唇を噛む。
「あの女には傅(かしづ)くつもりはねえ」
それは抑揚無い、低い声で。
「……だけど。櫂の選んだ人なら、彼女も守らなきゃ。きっときっと凄くいい娘……かも知れないよ?」
例え櫂の外貌に目が眩んだ女性でも、あの櫂が選んだ人ならば。
「……お前以上の女なんていねえよ」
ぼそっと呟かれた。
「買いかぶり過ぎ。あたしはできた女じゃない。きっと……今まで櫂が幼馴染に付き合ってくれたのは、優しさだけだったんだよ。
幼馴染は…惰性の関係なんだよ。煌もその内あたしを見限るかもよ」
最後は本当に冗談で、笑いながら言ったんだけれど。
「何だよ、それッ!!!」
褐色の目は真剣で。
「惰性とか、見限るとか、変なこと絶対言うな、マジ怒るからなッ!!!」
凄い剣幕で怒鳴られてしまった。