あひるの仔に天使の羽根を
「!!!」
煌が驚いて目を見開いた時には、あたしの身体は離れていて。
そのまま固まった煌が沸騰するまで3秒。
「せ、せせせせせ、い、いいいい、おおおお」
意味不明な言葉を放った時、あたしもはっと我に返って。
今――
何をやらかした、あたし?
途端心臓がどきどきと煩く鳴って、あたしまでもが意味不明な言葉を吐いて真っ赤になってしまって。
そんなあたしを見ている煌の顔は、これ以上ないという程の真っ赤っかで、口をぱくぱく開けたと思うと咳き込み、心臓をどんどん叩いて深呼吸を始め、そして突然しゃがみ込んだと思ったら、頬を手でぱんぱん叩いている。
「芹霞、今お前ッ!!! 俺にちゅうしたな!!?」
潤んだような褐色の瞳で見上げられて。
自分のしでかしたことを、相手から言葉で明確に再現されたこの恥ずかしさ。
思わず後方に蹌踉(よろ)けたあたしの足を、煌が両手でがしっと捕まえた。
おかしな図だ。
あたしの足下に、橙色の巨体が錘(おもり)のように抱きついている。
それをあたしは避けきれず、ただ真っ赤になってわたわたするばかりで。
「いつもの…親愛のちゅう……じゃねえよな、な、芹霞。お前、自分から俺の唇にちゅうしたんだからな、そんなのは絶対親愛じゃねえぞ!!?」
足下から必死な声。
「……ど、どうだろう?」
正直、あたしはよく判らない。
何でこんな行動をしてしまったのか判らない。