あひるの仔に天使の羽根を
「――…何で疑問系ッ!!?
お前……少しでも、俺に心動いた…んだよな!!?」
子犬が捨てないでと縋り付いてくるような、そんなうるうるとした目を向けられて、焦ってパニックになっているあたしは言葉が出てこない。
心が動いた…んだろうか。
イマイチ、確信が掴めない。
そんなあたしの困惑をみてとったのか、少しだけ切なそうにきゅっと唇を噛んでから、満面の笑みを浮かべて見上げてきた。
「俺は性急にコトの進展は期待してねえけどよ…俺が初めてだよな、お前が自分から誰かに唇ちゅうするのは!!!」
笑顔の意味は、そういうことらしい。
少し冷静に考えてみる。
「うーん、櫂にもしたな、2ヶ月前」
忘れねばならない過去になったけれど。
途端、煌の顔から幸せ色が全て引いた。
変わって浮かぶのは、険しい…苦しそうな色。
そして俯いてしまうと、そのままで立ち上がる。
「………。舞い上がるなって戒めか」
そうぼそりと呟いた時、
「あら。玲さん以外にもお手つき?」
聞きたくない声と、見たくもない影が間近にあった。
「まあ、貴方が誰にキスをしようと、私と櫂の愛は永遠ですけれど」
須臾の自慢が、今のあたしにはかなりキツい。
「……黙れ」
険阻な表情をした煌が、あたしと須臾の間に割って入る。