あひるの仔に天使の羽根を
 

その時――


「……須臾!!! 探したぞ…」


割り込んできたのは櫂の声。


今、一番聞きたくない男の声。


「玲……と…」


言葉が故意的に途切れる。


名前すら、呼んでくれなくなった櫂。


「千歳が死んだと知らせを受けて、お前を探していたんだ」


あたしの存在は…無視?


「――櫂…お前、それを須臾につけたのか?」


玲くん、確かめなくて良いから。


放っておこうよ。


「須臾…お前、わざわざ見せるなよ。恥ずかしいだろう?」



確定。



「ねえ櫂……」


鼻にかかったような甘ったるい須臾の声。


「櫂は、この人から唇にキスを受けたの?」


あたしと煌の会話を聞いていたらしい須臾。


一瞬、びくっと玲くんの身体が揺れた。


「……あるわけないだろ」


また、櫂はあたしから思い出を消していく。



「そんなこと、どうでもいいじゃないか。俺は須臾が好きなんだから」


声だけで判る、須臾への激しい愛情。


声だけで判る、あたしへの感情。

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