あひるの仔に天使の羽根を
 

"どうでもいい"


あたしが崩れないように。


あたしは唇を噛みしめ、せめて嗚咽を漏らさないようにと必死で。


手は、後にいる玲くんのズボンをきつく握りしめていた。


「玲、本当に俺と芹霞の間には何もないから。だからそんな顔するな」


苦笑交じりの、優しい櫂の声。


あたしが大好きだった、深い…玲瓏な声は、


「芹霞……お前、いい加減、人を振り回すのをやめろよ。刺激求めて遊びたいなら、俺とは無関係な処でやれよ。須臾が不安がっているんだ、人の恋路を邪魔するな」


"邪魔"


辛辣な言葉と共に、残酷な敵意を向けられて。


「お前、玲はどうだ?」


向けられる優しい声音は、意味不明。


どうしてそこで玲くん?


「お前が玲とくっつけば、須臾も安心するし一石二鳥なんだがな」


また須臾?


あたしのことなんて、本当にどうでもいいんだね。


「櫂、やめろ!!!」


その時、玲くんの手があたしの目から耳に移動していて。


玲くんの顔を見なくても判る。


玲くんは、あたしに櫂の言葉を聞かせたくないんだ。


だけどあたしはその優しい玲くんの手を払った。


「ねえ櫂。

櫂は……あたしを嫌いだった?」


それだけは聞いてみたくて。


泣かないよう、声が震えないよう頑張った。



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