あひるの仔に天使の羽根を
僕が避けてきた話題を、直球で尋ねられた。
仕方が無い。
「……ある…よ。
だから幸せ空間作って上げる。
先輩の言うことに間違いないよ?」
何が先輩だ。
どれもこれも満ち足りたことがなかったくせに。
僕は心で毒づきながら、余裕の顔でにっこり微笑んでみる。
心と態度を真逆に出来るのは、僕の特技だ。
芹霞は、僕に彼女がいたということに驚いた様子だった。
だけど一人納得して、ふふふ、と笑う。
「そ…だよね、玲くん格好いいもんね。女の子が放っておくわけないものね。そっか…あたし玲くんのこと何も知らなかったなあ。きっと相手の女の子、お姫様みたいに凄い可愛い子だったんだろうなあ」
妬いてもくれない現実。
須臾にはあんなに妬くくせに。
「じゃあ、今から僕のこと知ってよ。
知ってもし…芹霞が、僕の彼女になりたいと思ったら、なってもいいと思ったら、本当に付き合って?」
しかし芹霞は、堅い顔をして渋る。
「3日、ねえ…お試しでいいから」
ああ、もう泣きそうだ。
「もし嫌なら、元通り。何も変わらないよ?」
ここまで譲歩して、彼女になって欲しいと懇願しているというのに、
「玲くん、玲くんはもっと相応しい女の子がいると思うよ?」
頑なな芹霞は頷いてくれない。
「櫂達にばれたら辛いのは、芹霞だよ?」
僕は――卑怯だ。
「僕は辛そうな芹霞を見たくないんだ。
だから…嘘でもいいから付き合って?」
物分かりいいふりをして、芹霞を手に入れる為に必死で。
「………」
「本気じゃなくていいから」
「………」
ああ。
これでも僕は芹霞を手に入れられないのか。
嘘でもいいって言っているのに、僕は拒まれるのか。
嘘でも嫌なのか。
だから――
「芹霞……。
僕と付き合ったら、きっと櫂は元に戻るよ?」
僕は言った。
言いたくなかった言葉を。