あひるの仔に天使の羽根を
 

僕が避けてきた話題を、直球で尋ねられた。


仕方が無い。


「……ある…よ。

だから幸せ空間作って上げる。

先輩の言うことに間違いないよ?」


何が先輩だ。

どれもこれも満ち足りたことがなかったくせに。


僕は心で毒づきながら、余裕の顔でにっこり微笑んでみる。


心と態度を真逆に出来るのは、僕の特技だ。


芹霞は、僕に彼女がいたということに驚いた様子だった。


だけど一人納得して、ふふふ、と笑う。


「そ…だよね、玲くん格好いいもんね。女の子が放っておくわけないものね。そっか…あたし玲くんのこと何も知らなかったなあ。きっと相手の女の子、お姫様みたいに凄い可愛い子だったんだろうなあ」


妬いてもくれない現実。


須臾にはあんなに妬くくせに。


「じゃあ、今から僕のこと知ってよ。

知ってもし…芹霞が、僕の彼女になりたいと思ったら、なってもいいと思ったら、本当に付き合って?」


しかし芹霞は、堅い顔をして渋る。


「3日、ねえ…お試しでいいから」


ああ、もう泣きそうだ。


「もし嫌なら、元通り。何も変わらないよ?」


ここまで譲歩して、彼女になって欲しいと懇願しているというのに、


「玲くん、玲くんはもっと相応しい女の子がいると思うよ?」


頑なな芹霞は頷いてくれない。


「櫂達にばれたら辛いのは、芹霞だよ?」


僕は――卑怯だ。


「僕は辛そうな芹霞を見たくないんだ。

だから…嘘でもいいから付き合って?」


物分かりいいふりをして、芹霞を手に入れる為に必死で。


「………」


「本気じゃなくていいから」


「………」


ああ。


これでも僕は芹霞を手に入れられないのか。


嘘でもいいって言っているのに、僕は拒まれるのか。


嘘でも嫌なのか。


だから――


「芹霞……。

僕と付き合ったら、きっと櫂は元に戻るよ?」


僕は言った。


言いたくなかった言葉を。


< 772 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop