あひるの仔に天使の羽根を
だとすれば。
櫂の真情の爆発に賭けるしか、櫂を元に戻すしか方法はなく。
嫉妬させて真実の愛を膨張させれば、須臾の力に打ち勝てる可能性があって。
それには……妬かせるほどの芹霞との関係が必要で。
だけどそれを煌には託せなくて。
どうしてもそれだけは出来なくて。
物分かりいいふりは出来なくて。
僕だって"男"だから。
「ねえ、どうして?」
僕は意味ありげな笑いを見せて、唇に人差し指をあてて言う。
「それは、付き合ってからのお楽しみ。
櫂を元に戻したいでしょう?」
だから僕は芹霞に囁くんだ。
「だから形だけでも、僕の彼女になって?」
例え形だけでも、僕だけのものだという証拠が欲しくて。
誰にも渡したくなくて。
「そうしたら、全てが元通りになる」
「でもね、玲くん。仮に櫂が元に戻ったとしても、あたしに対する言葉は本当だと思うんだ」
芹霞はそう哀しげに俯いた。
「あたしは櫂から離れないといけないのかもしれない」
深く傷ついている芹霞の心に、僕は言葉が出ない。
「そうしたら、玲くんとも会えなくなっちゃうね」
その言葉は、僕から一瞬にして思考を奪い去る。
「え?」
「だって……。煌は同じ家に住んでいるけれど、玲くんは櫂と同じ家に居るんだし、櫂から離れれば玲くんとの接点だって……」
「馬鹿言うなッ!!!」
僕は思わず怒鳴ってしまう。