あひるの仔に天使の羽根を
「あたしは、皆の為に櫂を元に戻したいと思う。皆あっての櫂だから。須臾の為に、皆から笑顔を消すわけにはいけない。そして戻ったら……」
強く光る黒い瞳。
「あたしは櫂の前から姿を消そうと思ってる」
「芹霞……」
「あたしはどうしても、あの言葉が櫂の本音に思えて仕方が無いの。こんな懐疑的な気持ちのまま、櫂の傍には居られない。だから…幼馴染として最後の仕事をして、幕を下ろしたい」
今にも泣き出しそうな瞳。
「だから協力して?」
僕は――頷いた。
「例え本当の恋人じゃなくても、僕は本気で君を恋人として扱うよ?」
それしか僕は言えなくて。
「だから…もしお試しが終わっても、芹霞がいいと思うのなら……その時は本当の恋人になって?」
芹霞は――
「……判った」
躊躇いながらも了承した。
「それからもう1つ」
「……?」
「名前…呼び捨てにして?
どうしてまた"くん"付けになってるの?」
僕はくすりと笑った。
「あ……」
「……皆の前で宣言するよ。じゃないと信憑性ないから」
本当に僕は卑怯だと思う。
「判った」
こんな方法でしか芹霞を手に入れられない。
「煌には……」
言葉を切った芹霞は、強い面差しで僕に言う。
「あたしから言うから」
僕は頷いた。