あひるの仔に天使の羽根を
多分――
まだ俺は、紫堂を捨て去って須臾と生きる覚悟が弱いんだ。
俺はこの先、須臾の為に皆を東京に帰さないといけなくなる。
俺がどんなに皆と一緒に居たいと願っても、俺が須臾を選ぶ限り、紫堂が存続する限り、俺は皆までも切り捨てないといけなくなる。
両者が混在を望まぬ限り、俺は選択を強いられる。
だとすれば。
皆との別離が必然だとすれば。
俺はその時まで、ぎりぎりの時まで、今までと同じ様に…それ以上に親密に、皆と笑って過ごしたい。
俺は皆が好きなんだ、心を許しているんだ。
芹霞を俺の近くに置けば。
須臾が納得する形で、芹霞が今まで通り俺の傍に居れば。
刹那の時であっても、それが可能になるのではないだろうか。
須臾は、俺と芹霞の仲を心配しているのだ。
俺の近くに居る男達の女となれば、少しでも長く皆と一緒に居られるのではないか。
妙案に思えた。
須臾は煌や桜に嫌悪の情を見せるが、玲なら芹霞の相手に同意している。
悪い、煌。
これも俺等の為だ、耐えろ。
いい女は他にいる。
――そんな時だった。
俺の力が解放される感覚が芽生えたのは。
「!!?」
俺の意思ではない。
これは先刻もあった。
俺の…闇の力が…使われている?
――須臾か?
間もなくして荏原が飛び込んできて、須臾の所在を訊いてきた。
樒の元にはいないらしい。
その慌て具合に、理由を尋ねれば、
「千歳様がお亡くなりに!!!」
驚愕の声が思わず漏れた。