あひるの仔に天使の羽根を
心が澱む。
何だろう。
どうしても玲に譲りたくないものがある。
その形が見えなくて、もどかしい。
「須臾の居所なら、櫂に聞けば?」
気づけば荏原が玲に須臾の所在を聞いていたらしい。
まだ玲の怒りは持続しているらしく、俺に向ける鳶色の瞳はとても冷たい。
正直、こたえる。
ここまでの仲違いをしたことはなかったから。
心が重くなるばかりの現実を嘆く俺の耳に、遠坂の馬鹿でかい声が響いて。
「千歳くんが死んだって!!?」
顔中"ショック"を表現した遠坂の横で、桜は何か言いたげに口を半分開き、玲は鋭い眼差しで何か考え込んでいた。
やがて玲はすくりと立ち上がり、厳しい顔で荏原に尋ねる。
「場所は? 死因は?」
「場所は……」
荏原が、俺を横目に言い淀んだ。
俺が怪訝な顔を向けると、やがて荏原は力なく言う。
「須臾様の棟の……ベッドです」
「須臾の!!? どうしてだ!!?」
俺の声は大きくなった。
どくん。
「判りません。大体、千歳様が須臾様の棟に行かれることなど、今までにないことでして……」
どくん。
玲が桜や遠坂、荏原に何か口早に指示していたが、俺の耳には届かなかった。