あひるの仔に天使の羽根を
嫌な予感が現実になりそうで。
解放された俺の力。
消えた須臾。
須臾の部屋の死体。
優しい須臾が。
あの清楚な須臾が……?
須臾には俺に見せない顔があったのだろうか。
理解していたと思っていたのは俺の自惚れだったのか。
"理解"
俺の頭に浮かんだ"何か"が、鋭い痛みにかき消される。
何だというんだ、本当に。
"何か"が思い浮かべば痛みが邪魔して、考えることを放棄すれば痛みは消える。
俺は、本当に"正常"なんだよな?
皆から拒まれたことが、猜疑心を膨らましていく。
俺は須臾を探した。
須臾を見て、須臾を感じて。
"妄想"を振り払いたくて。
だけど須臾が居なかった。
建物を駆け回っていた時、前方で横切って走る橙色を見た。
煌だ。
凄く不機嫌そうな顔をしていた。
「?」
煌が出てきた処を見れば、そこには長い黒髪が舞っていて。
須臾の笑い声を聞いた。
居た。
俺は声をかけて、そして途中で言葉を飲んだ。
須臾に相対しているのは、玲と…玲が目を塞いでいる芹霞だ。
玲が後から芹霞を抱いているように見え、俺は何故か芹霞の名前が呼べなかった。
言葉が消えたんだ。
玲の言葉が蘇る。
――"お前"がどんなに喚いても、僕は芹霞を離さないぞ?
芹霞の顔は玲の手で覆われているから、表情は判らない。
玲のあの姿勢に嫌がっていないように見えるのが、何故か心がもやもやした。