あひるの仔に天使の羽根を
関係ない。
俺には須臾が居る。
俺は須臾に笑顔を見せた。
「――櫂…お前、それを須臾につけたのか?」
ぞくりとするくらい、怒気を孕んだ声が響く。
見ると、須臾が着物の襟を拡げて、俺がつけた証を見せていて。
俺は少し焦りながら、須臾を窘(たしな)めて着物を正してやる。
更に。
「櫂は、この人から唇にキスを受けたの?」
須臾が芹霞を指差しながら、俺を見た。
俺が…芹霞から唇にキス?
一瞬、頭に痛みと共に閃光が脳裏に散り、何かが見えた気がしたけれど。
ありえない。
記憶にない。
俺は否定する。
なんだって須臾はそんな不穏なことばかり言い出すのか。
そんなに俺が信じられないんだろうか。
もしかしたら。
俺は芹霞を見た。
芹霞が須臾をよく思っていないから、須臾の傷つくことばかり言って、俺達の仲を引き裂こうとしているんじゃないか。
そう思えた。
それでいて、玲に縋るような態度を見せる芹霞に、俺は無性に苛立った。
だから、俺の心はこんなにもやもやしているんだと思った。