あひるの仔に天使の羽根を
動揺が言葉に出た。
「…嫌い……ではないよ」
「お前には……借りがあるからな」
もっともっと適切な言葉があるだろうに、俺が紡ぐ言葉は不明確に揺らめいて。
――後悔するなよ、"櫂"。
ずきん。
「義理人情、だね」
その言葉に、更に胸が痛くなる。
8年前の記憶が蘇り、認識する前にすぐ消えていく。
「そっか…。あたし今まで気づかなくてごめん。いい気になっててごめん。早く厄介払いしたかったよね」
その酷く辛そうな笑顔に、俺は内心焦る。
ちょっと待て。
俺、そこまで芹霞を邪険にしたか?
俺は自分のとった行動や言葉が、もう何が何だか判らなくて混乱していて。
俺が一体何をしたかったのさえ定かではなくて。
目の端に映ったのは堅い顔をした須臾と、玲。
俺は適当な言葉で誤魔化す。
「今までありがとうね、櫂」
ずきん。
「大好きだったよ、櫂」
途端。
ずきんを通り越し、息が止まると思うくらい、ぐさりと…過去形にした芹霞の言葉が心臓に突き刺さった。
思考が心の動きに追いつかない。
そんな俺の混乱をよそに、芹霞は笑っていて。
「あたしは櫂から卒業するから。
だから……須臾と仲良くね」