あひるの仔に天使の羽根を
愛し合う2人。
そこには微塵の隙間はなく、誰も入れない。
誰も入れようとしていない。
心の中で、得体の知れないものが暴れている。
苦しくて仕方がない。
このまま居れば、俺は正気を保てないと思った。
それ程、その濃厚な場面は、俺には耐えられないものだった。
俺は背を向けて歩き出す。
まるで負け犬のような気分だった。
背中に漏れ聞こえる…甘い吐息と、リアルな唾液交じりの粘音。
微かにお互いの名を呼んでいるような…言葉にならない囁き声。
どうして――
人間には想像力というものがあるのだろう。
見たくも聞きたくないものの正体を、推し量ることが出来るなど。
人間を作った神を呪いたい。
俺の手は自然と唇に向かい、ごしごしと血が滲み出るくらい強く擦った。
何かを思い出すのを拒むように。
何かを思い出したいように。
そんな時、須臾が追いかけてきて、
「ふふふ、お似合いの2人ね。
ああ、まだ離れたくないみたい。烈しくて、妬けちゃうわ」
当然のように俺の腕を組もうとしたけれど、
「1人にしてくれないか……」
そう言って、手を払うのが精一杯で。
本当は、構うなと怒鳴りだしたい気分だった。
俺の気分に気づかず、"お似合い"なんて、俺の気分を益々損ねることを笑って言える須臾の無神経さに、無性に苛立っていた。
そう俺は――
説明できない俺の"気持ち"に手一杯で。
醜く歪む須臾の顔なんて、観察する余裕なんてなかった。