あひるの仔に天使の羽根を
妙な緊張感が走る中、女の黒い瞳がすっと細くなった。


「前回ではアオが、今回ではシロが。そして残る"黒皇"と"緑皇"…クロとリョクも、独自に藤姫から命を受けていた形跡がある。藤姫とソリがあわぬ私だけは完全蚊帳の外だ。

基本五皇は互いの干渉を嫌い、必要な時以外は口すらきかぬ。互いの素性を知るのは私とアオのみ。他三皇については私もアオも何1つ知らぬ。

アオの時のように力尽くの方法も取れようが、シロの奸計はアオ以上でな。常に私は後手に回ってしまう。

そのシロが関わった地に妙なものが開催された。乗り込む絶好の機に、私は手を離せぬ案件を抱え身動き取れぬ。

故に、私の代わりに真意を見極めてきて貰いたい。全ての責任は私が持つ。どうだ坊、やってくれぬか」


「紅皇のお望みならば、異存なく」


漆黒の少年は、悠然とした美しい笑みを浮かべ丁寧に一礼すると、他の3人もそれに続く。


それを見て満足そうに笑う女は、静かに言った。


「時に坊。"醜いあひるの子の定理"というものを知っておるか?」


突然の問いに、少し躊躇いながら漆黒の少年は答えた。


「2つのものの類似点と相違点は同じ数だけある、というものでしたか」


「そうだ。各務はそういう家系、見かけに惑わされるな。

それから。神崎と各務は、13年前に接点がある。

以前、五皇は紫堂の縁者だと告げたことがあろう。

神崎もまた紫堂の縁者、故に交わえる各務の家筋も普通ではない。だからこそ消えたシロの動向が気がかりでな。

退院直後の芹霞には悪いが、あいつには事態を推し量る道標となって貰う。

芹霞が約束の地(カナン)の何かに反応を示すようであれば、恐らく鍵は13年前の――芹霞の記憶の中に。

だが――鍵を無理矢理取り出そうとすれば、お前達にとって不利な記憶まで掘り起こすことになる。気をつけろよ?」


「何だよ、それ~ッッ!!?」


「さあ――

天使が出るか、悪魔が出るか。

常識には非常識を。非常識には常識を。

相反するものを合となせば、自ずと真実は見えてこよう。

そう、それからでなければ、お前達も何も始まらぬ」


女は、どこまでも意味ありげに笑った。




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