あひるの仔に天使の羽根を


目鼻立ちが大きい、華やかな女性。


傍に居る荏原さんが頭を下げ、出て行く。



この堂々たる風情は――


「……お母様」


須臾の言葉からも判る。


この女性は、各務家の当主だという……各務樒だ。


彼女の女王様オーラに、気圧されそうだ。


彼女は、床に抑えつけられている久遠を不快そうに一瞥しただけで、それ以上の反応はせず、須臾に向かい合って立った。


久遠は息子だというのに、何故平生としていられるのか。


その異常さに息を飲んだのはあたしだけではなく、気づけば玲くんも桜ちゃんも櫂も、怪訝な顔を向けていて。


この場には、由香ちゃんとイクミがいないことに、今更気づいた。


久遠の櫂に対する敵意は消えていて、それを確認した玲くんと桜ちゃんは拘束を弱めて彼を解放した。


久遠は、母親の様子を特に気にするでもなく、服の汚れを落とすようにぱんぱんと軽く自分の身体を叩きながら、何事も無かったかのように、すたすたと壁際に戻り、背を凭れさせた。


部屋から出て行く様子はないらしい。


そんな間にも、須臾と樒は何か会話をしていて。



「判ったわ。じゃあ儀式は明日の早朝ということね」


そんな嬉しそうな樒の声に、あたしの身体は固まった。


時期が――早まったの?


「ありがとうございます、お母様。良かったわね、櫂。これで私達は永遠に一緒に居られるわよ!!!」


須臾の嬉々たる声が、あたしの脳裏には虚しく響いて。


間に合わない、の?


どうしよう、どうしよう。


あたしの思考は、いつも以上にまともな判断がつかない。


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