あひるの仔に天使の羽根を
顔を上げれば――
櫂があたしを見ていた。
櫂の言葉は意外と言えば意外だった。
諸手を挙げて大賛成するかと思っていたのに。
躊躇するその態度に、何か意味があるんだろうか。
皆の大切さを思い出したのだろうか。
喚く須臾を余所目に、櫂はあたしを見続けている。
何かを訴えるような切れ長の目。
何かに苛立ったように揺れる漆黒の瞳。
こんなに真っ直ぐ視線を交わしたのが、凄く久しぶりな気がする。
泣きたくなる。
櫂は何も言わない。
だけど。
言葉以外の方法で、櫂が何かを伝えようとしているように思えた。
櫂が、元に戻ろうとしているのか。
しかし、そんなあたし達を遮ったのは須臾ではなく……
「ご勝手に。芹霞……僕の部屋に行こうか」
あたしを抱き留めるようにしながら、退室しようとした玲くんで。
「……玲?」
玲くんだって、櫂が何かに惑っていることに気づいているはずなのに、何か兆候(サイン)を発しているのに、どうして見過ごすのだろう。
今何とかすれば、櫂が戻るかも知れないのに。
「そんなに……甘くないんだよ」
耳元に囁かれたのは、堅い玲くんの声。