あひるの仔に天使の羽根を


顔を見上げれば、何かに煩悶するような鳶色の瞳があって。


端麗な顔が少しだけ険しくて。


「……そこまで惚れ込んでいるとは、何て厄介な奴なんだよ…」


微かな舌打ちは、あたしだけしか気づかないようで。


「その前に……芹霞さん」


須臾が声をかけてきた。


振り返れば、挑発的な眼差し。


「あなたが首につけている、櫂の石、私に返してください」


「……この石は、貴方のものじゃないわ」


あたしをずっと守ってくれたこの石まで、須臾は奪おうとする。


「結局は同じこと。ね、櫂」


須臾に促された櫂は、何も言わず、僅かに目を細めただけ。


彼は今、何を考えているのだろう。


何だかぼんやりしている気もするけれど、

判るのは――

櫂にとってやっぱりあたしはどうでもいいということ。


執着しているのは、あたしだけだ。


あたしは首から石を外す。


「バイバイ」


せめて、この石だけは貰いたかったけれど。


さようなら。


あたしと櫂を繋いでいたもの。


あたしは涙を堪えて、無言で満足げな笑みを浮かべる須臾に石を手渡す。


悔しいよりも哀しい。


さようなら。

あたしの執着。


さようなら。

あたしと櫂との思い出。



そんな時――だった。


「これから僕と芹霞は、昼夜構わず一緒の部屋を使わせて貰いたいんですが、良いですか?」


突然玲くんが、そんなことを樒に向けて言ったのは。



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