あひるの仔に天使の羽根を
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目を覚ませば、またあたしはベッドに寝ている。


何度あたしはぶっ倒れているのだろう。


玲くんの色気は凶器だ。


あたしはそのうち、玲くんに殺されるかもしれない。


そう思って溜息をついた途端、ドアが開いて由香ちゃんが入ってきた。


「おはよう……って言っても、神崎が寝ていたのは僅かだけどね」


由香ちゃんは笑いながら、ベッドの縁に腰掛けてきた。


上体を起こして苦笑するあたしに、由香ちゃんは眉を八の字に傾けた。


「神崎~、師匠と付き合うんだって?」


何処からの情報なのか。


「あ……うん。櫂を戻すための偽装…なんだけど」


「師匠は本気だよ?」


あたしは押し黙ってしまう。


「君はそんなこと気づかず、付き合ったんだろうこと容易に想像出来るけれど。師匠も切迫してたとはいえ……強引の感は拭えないよなあ。鉄壁の自制心でも、やっぱり煽られまくったのかなあ。でも暴発したのは、師匠だけではないだろうけれどさ」


「ねえ、由香ちゃん。あたし……浅はかだったのかな?」


「如月のこと?」


あたしが何も語らずして、由香ちゃんは状況を飲み込めているらしい。


「そりゃあ判るさ。歩く片思い。如月は君にぞっこん、あからさまだからね」


判らなかったのはあたしだけ、か。


「今、葉山が如月の面倒見に行っている。まさしく適役だよ、葉山は。君は絶対動くなよ、君が動いたら事態が悪くなる」


「でも……」


「適役だと言ったろう? 今の状態の如月を抑えられるのは葉山と……あの人くらいなものだ」


「誰のこと?」


「内緒」


由香ちゃんは意味ありげに笑った。

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