あひるの仔に天使の羽根を
「ねえ、神崎。君が寝ている間、師匠と葉山とボクとイクミで話をしたんだけれどさ、君は今日の夜は覚悟しておいた方がいいぞ」
「覚悟って?」
「師匠と…一夜を同じ部屋で過ごすんだ」
「はあ!!?」
しかし由香ちゃんの顔は至って真面目…というより深刻だ。
「じゃないと、紫堂はこのまま須臾嬢と此処で暮らす羽目になる」
「ちょっと待って。どうしてあたしが玲と一緒に寝ることが関係あるの?」
「はあ? 今更なんだよ。紫堂を元に戻す為に、君は師匠と付き合ったんだろ?」
「そうだよ。だけど脈絡ないじゃない」
「……ねえ、神崎。師匠はどうして"付き合う"ことが必須なのか、理由を聞いている?」
あたしは頭を横に振る。
「付き合えば判るって、教えてくれなかった」
すると由香ちゃんは、実に複雑そうな表情をして頭を掻いた。
「……はあ。師匠の矜持かよ……」
由香ちゃんの溜息の意味が判らない。
「これは如月では荷が重すぎるんだよ…というより、如月だったら駄目だ。堪え性ない暴犬には酷すぎる。これは…師匠しかできないことだ」
由香ちゃんの顔は悲哀じみていて。
「何が!!?」
「ナニが」
意味が判らないけど、追い詰められた気分になっているのは何故!!?
「そんなことより」
これに勝る話題なんてないはずなのに、由香ちゃんはさらりと話題を変えた。
「実はボク、イクミと一緒に樒サンを覗き見…というより、その声を盗み聞きしてたんだけど、イクミ…彼女の声を聞いて何て言ったと思う?」
「?」
「"私がお話ししていたお嬢様の声ではありません"」
ああきっと、"シキミ"違いなんだ。
「"だけど"」
その反語に、あたしは由香ちゃんを見つめる。