あひるの仔に天使の羽根を
 

ああ――

狂ってしまいたい。


玲のものになっちまったなんて、認めたくねえ。


どうして俺の心は届かず、玲の心は届くんだ?


どうして俺は、魅力がねえんだ?


心が、燃え滾るような想いに焼き焦がれていきそうだ。


芹霞が俺以外を選ぶなら。


今までの方がましだ。


俺は"男"を押し殺すから、誰も選ばねえで欲しい。


今だけでもいいから。


他の男が"男"を見せて、芹霞に触れることが耐えられねえ。


他の男の腕の中に、"女"の芹霞が居ることが溜まらなくきつい。


嫉妬に狂って悶死しそうだ。


俺は――

芹霞が欲しいんだよ。


芹霞がどうしても欲しいんだよ。


だけど芹霞は――。


――ごめん、煌……。



「しよう?」


声に振り向けば、先刻の女。


色情狂の女。


温室に居た久遠は……この女とお楽しみ中だった。


といっても、服を着たまま久遠に跨がり、盛り上がって声を上げていたのはこの女だけで、敷かれた久遠は無表情のまま機械的に腰を振っていただけだ。


その温度差が、まるでかつての俺と香水女に思えて溜息が出たが、その時の俺は機嫌が悪すぎて、他人の濡れ場に居合わせたという実感も薄れていたから、それはもう平然と道楽息子を引き摺り、途中何度も久遠と怒鳴り合いを繰り返しながら、あの部屋に連れたわけだ。


俺によって、いいトコで放置プレイを余儀なくされた女は、消化不良のまま獲物を待っていたらしい。


ああ――

俺は温室に居たのか。


認識と同時に、噎せ返る薔薇の香りが鼻孔に拡がった。


愚鈍な俺は、置かれた状況を後で気づくんだ。


だっせぇ……。



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