あひるの仔に天使の羽根を
 

いつも一方的にやられてばかりの俺だけど、股間の命がかかっているとなれば、本能的に応戦する迅速力がレベルアップするらしい。


するとそれが益々桜の怒りを煽ったようで、もう闇雲に…意地になって俺に攻撃をしてきやがった。


……股間を狙って。


「桜、お前怪我してんだろッッ!!?」


「うるせえッッ!!! 黙って殺られやがれッッ!!!」


散っていく薔薇。


俺はもう命からがら桜から逃げている。


鬼ごっこだ。


後から、どっかーんどっかーんと地面を崩す音が襲いかかる。


此処で外気功なんて冗談じゃねえ。


こいつがそれを使う時は、余程の時だ。


俺は必死で逃げ回る。


その時。


一際大きい轟音がして、


「お!!?」



地面に大きな亀裂が走り、面白いくらいに地面が瓦解した。


桜が渾身の力で地面を叩き付けたらしい。


地面ががらがらと崩れていく。


「お前ッ!!! 人様の温室壊してどうすんだよッ!!!」


地面と共に奈落に呑み込まれる俺達ではねえけれど、


「元よりこの地面に皹が入ってたんだよッ!!!」


地盤沈下って奴か?


何で温室の地面に皹が?


崩れ落ちる地面のおかげで、桜は落ち着いてきたらしい。


それどころか、


「な、桜!!! 何処行くんだよッ!!!」


桜は、陥没の中に下りてしまった。


やべえ、桜が呑み込まれる。


焦った俺だったが、そんな低くない場所に、桜は降り立っていた。


地下があったのか。


穴の下から桜が俺を見上げて、くいと顎で俺を促した。


俺も来いということらしい。


とりあえず股間の危機が去れば、桜との行動に異存はない。


俺も地下に降り立った。

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