あひるの仔に天使の羽根を
 
「此処…何処だよ」


暗闇の中、前方ですたすた歩く桜に声をかける。


勿論、返事はねえ。


しかし桜っていう奴は、どんな場所に行っても物怖じしねえ。


俺より遙かに肝が据わっているんだ。


伊達に、紫堂の警護団長やってねえよ。


きちんと、地下としての役目はあるらしい道程は、それなりの舗装はされているようだ。


そんな時、桜が突然立ち止まり屈みこんだ気配がした。


「……何だよ?」


暗闇でも俺達の目は、或る程度のものなら捕えられる。


桜は地面の……溝みてえなものを指でなぞっていた。


何だ……それ、半端じゃねえ瘴気を感じる。



「……魔方陣」



そう呟くと、考え込み…そして呟く。



「ここは丁度……各務家の真下か」



そしてまたすたすたと歩き出し、また屈み込んだ。


「……ここにもある? ここは…須臾の棟の真下あたりだな」



俺は、桜が何を言いたいのかさっぱり判らねえ。



「おい、俺にも判るように説明しろよ」


「玲様の見立て通りということだ。櫂様しか開けられない、あの石の扉があったくらいだ……藤姫の地下室にあった、負の象徴であるあの魔方陣も、此の地の何処かに描かれているはずだと。複数だとは意外だったが、石の扉も1つじゃないのなら、それもまた必然ということか」


物騒なことを言いやがる。


いくらなんでも俺だって、この地は嫌でも2ヶ月前の事件と結びついているんじゃないかって気づいてしまうだろう。


つまりこの溝は、あの魔方陣の一部だっていうことだ。
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