あひるの仔に天使の羽根を
 
そんな俺が海に投げ出され、不思議な銀色の光に導かれて泳いでいた時。


水面に漂う"アレ"を見つけたんだ。


目の前にぷかぷか浮かぶ、赤いアレ。


"スケスケ"だ。


その時風が吹いて、遠くに流れそうだったから、思わずそれを掴んでしまって……何だか手放せずにそれを尻ポケットにねじ込んで泳いでしまった俺。


そう、何となくなんだ。


特に意味はなかったんだ。


一際大きな波に呑まれるようにして行き着いたのは、景色変わって、燦々とした太陽が照りつける波打ち際。


まるでハワイやグアムなどの観光地のような輝く海の碧色に、浜辺で伸びた体勢のまま俺は暫し呆けた。



だから――


気づかなかったんだ。


俺にとっては"悪魔"の、


小さな子供が近づいてきていることに。



――かぷっ。



俺を現実に返したのは、脇腹の痛み。


見ればあどけない顔をした、小さな女の子が俺の脇腹に齧り付いていて。


そう、齧り付いていて――



「いってえ~ッ!?」



慌てた俺が、少女を引き離した時、



「きゃははははは」



邪気無い声が拡がった。


子供ってすぐ齧り付くもんなのか!?


子供の趣向が判らねえ俺は、きっちりとついた歯形を恨めしげに摩る。



「!!!」



今度は反対側に痛み。


「噛み付くなってッ!!」


この子供(ガキ)、今度は反対側に齧り付いた。


引き剥がしても、きゃははははと笑いながら噛み付いてくる。


遊んでいると思われてるのか?


馬鹿言え。これは闘いだ。


だけど子供相手に本気も出せねえ。


一体何なんだよ、このガキ。


どうすればいいんだよ、俺。



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