あひるの仔に天使の羽根を

玲は苦々しい表情を向けてきた。


「あのさ、これは……お試しみたいな暫定的プログラム処置だから、何れは元に戻される。多分今も尚、猛速度で僕のプログラムの書き換えが起こっているはずだ。今はそれを更に上書きする…由香ちゃんの"早さ"と"正確さ"に頼るしかない」


「暫定とはいえ、お前のプログラムがそんな簡単に覆されるのか」


「向こうの速度が尋常じゃない。キーボードを使用しない意識的なコード変換でも正直追いつかない。更には"彼"は、此の地の人間を即座に動かせる立場にいるらしい。プロテクト解除した途端、来ただろう…神父達が」


突然"神格領域(ハリス)"に現れたのは、必然だったのか。


その疑問以上に浮かんだ疑念。


「お前は、設計者に心当たりがあるのか?」


すると玲は、間を置いてから言った。


「刹那、という名前の男らしい」


セツナ。


ざらざらとした不快なものが身体に流れる感覚。


何だろう、この名前に聞き覚えあるような。


そんな俺を鳶色の瞳はじっと見ていて。


俺の脳裏に、閃いたものがある。


「ああ……あれだ」


思い出した。


「樒が……そんな名前の老人と地下で会っていた。

何でも久遠を嫌う原因も"刹那"みたいだったが」


「なんだって?」


玲の顔が驚愕に満ちていて。


俺は見聞きしたことを話す。


「樒が愛した"刹那"が、各務の地下に……その為に必要な儀式…?」


玲は考え込んでぶつぶつと呟いている。


「確かに双方老人だけど、同一人物だとしたら……僕のプログラムに対抗しているのは一体誰だ?」


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