あひるの仔に天使の羽根を
「老人なのか、お前の言う設計者は」
「ああ。82歳で"KANAN"の開発者だ。此の地の電気系統全てを任せられているが、その家に行った時彼はいなかった。そしてその娘は"シキミ"という名前で紫外線にあたれない病気を患い、家から出たことがないらしい」
「紫外線を浴びると火傷状態になる、色素性乾皮症みたいな難病か?」
「その類だろうね。そんな父子の面倒を3ヶ月前までみていたのが、由香ちゃんと一緒に居たイクミって名前の子だ。娘の火傷の痕が酷い為、お世話係のイクミでさえカーテン越しで話すだけだったみたいだけど。
シキミという名前は有り触れた名前じゃないから、各務樒の声を聞かせてみたんだ」
そして玲は言葉を切り、俺を見た。
「イクミが断言した。
娘の声を持つ主は須臾だと」
は!?
「何で須臾?」
須臾の身元は俺が立証できるはずだ。
だって俺はずっと須臾が好きで、須臾だけを追ってきたのだから。
だけど、何だこの違和感。
「娘の部屋と須臾の部屋は、同じような雰囲気だ。娘の病気云々は、元よりイクミがそれを聞いただけの話で実証は出来ないけれど、何か引っかかる」
「……須臾は…」
その先の言葉が見つからない。
「聞きたいって言ったの、櫂だろ」
俺は押し黙る。
「他にも色々見えてきたけれど、今ごちゃごちゃここで言ってても仕方が無い。今は芹霞を見つけるのが最優先だ」
俺は玲の声に頷く。
「だけど……しつこいよね、本当」
目の前には――
黄色い神父達が、狂った目をして俺達を見ていた。
「芹霞は、あの式典の建物の中に居るのに!!!」
苛立った鳶色の瞳。
俺では感じられない芹霞の所在を、玲は感じ取れるんだ。
「櫂。手加減なしで、最速で倒していくぞ。本気出せ!!!」
その事実が悔しくて――
俺はただただ……
唇を噛みしめた。