あひるの仔に天使の羽根を
 
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頭とお腹の鈍痛に、思わず目を覚ました。


こっそりお腹を見てみると大きな痣。


殴られ慣れていないあたしの身体は、脆すぎた。


思い返せば、よく煌は桜ちゃんに殴られ、玲くんにも殴られてもけろりとしているけれど、実際力入れて殴られるのはこんなに痛いんだ。



「……はあっ。煌……大丈夫かな」



身体は強靭でも、煌はメンタルに弱い。


強面で短気で、怖いお兄さんからも恐れられるくせして、意外に涙脆く、動物系映画のラストでは大体涙目だ。


外傷には我慢強いくせ、劣等感は人一倍強くていじけ易く、極度の"S"の緋狭姉にいつも傷口を抉られて、更に底に沈められて落ち込んでいることもしばしば。


本当に愛いワンコなんだ。


煌の"逃げ"が香水女で、それをいつも面白く思っていなかった理由が、嫉妬によるものかどうかは今でもよく判らない。


とにかく。


そんな煌をあたしは見ていたくせに。


煌の再生能力は、"心"は対象外だと判っていたのに。


そのあたしが、煌の心を傷つけた。


ああ早く謝りたい。


だけど何て言えばいい?


あたしは玲くんよりも煌を選ぶと?


違う。



"選ぶ"ということはそんな簡単なことじゃない。


あたしは煌の慟哭でそれを思い知ったじゃないか。


軽々しく"選ぶ"と口にするのは許されない。


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