あひるの仔に天使の羽根を
この空間にはあたし1人だけで。
溝みたいな傷のある壁を不思議に思って近づけば、機械音をたててその部分の黒色が横にずれた。
自動ドア、だったのか。
「………」
何の苦労もなく、難なく部屋から出れたあたしは、何だか少々物足りないような呆気なささえ感じ取りながら、辺りを窺いつつ慎重に廊下を歩いた。
赤が混在した漆黒の外壁。
不気味な色柄の外壁は、あたしの視界を埋め尽くす。
途中分岐もあったけれど、何処をどう歩いていいのか判らず、何時ぞやの鏡の迷宮のように、真っ直ぐに歩いてみたあたしは、やがて行き止まりを食らう。
しかしそこにはまた溝が走っていて。
やはり案の定、溝の前に立てば漆黒色の壁は喪失し、簡単に通行口が現れる。
狭い道なりを少し歩けば、パノラマ展望台のように円状に湾曲する硝子面に突き当たる。
そこが実質の終着点だ。
思わずその硝子の向こうを眺めると……
「な、何……此処!?」
広がっていたのは真紅色。
赤い赤い……鮮血に染まった円状の小広間。
その中に居るのは――
泣きながら…血に錆びた日本刀を手にしている血に塗れた男と、ライフルのような銃器を手にして震える男で。
彼らの足下に積み重なるのは……血色の肉塊。
彼らによって切り刻まれ、撃ち殺された見るも無残な屍の山。
此処で何が行われていたのか、想像しなくても判る。
凄惨過ぎる光景。
「うふふ、見ちゃった? お姉さん」
不意に声がして、焦って振り向けば司狼が居た。
「此の建物ではね、こういう小部屋が沢山あってね、それぞれの部屋に多くの人間が放り込まれ、より強い人間が1人だけ選別されるんだ。それまでは部屋からは出られない」
ゆっくり、ゆっくり…近づいてくる司狼。
「死ぬのが嫌なら、生き残ればいい。
なんて単純明快な解答なんだろうね?」
目の前に――
投げ捨てられたのは、小型のサバイバルナイフ。
「今、そんなものしかないけれど、ないよりはましだと思うよ。せいぜい楽しませてよ、観客はエグければエグい程、喜んで盛り上がるからさ」