あひるの仔に天使の羽根を

「いい加減にしろ、このガキッ!!!」


どさりと砂に小さな身体を落とし、怒ることにした。


威嚇することは慣れている。


少し怖い目に遭わせれば、きっと言うことを聞くだろう。


いい年した大人だってそうなのだから。


そう思い、厳つい顔を突き出そうとした時、真下にいるはずの月の姿はそこにはなく。


「!!?」


見るといつの間にやら俺の背後に回り、俺の尻からあの赤いスケスケを取り出していた。


俺は慌ててそれを取り上げる。


すると月も躍起になってそれを取り返す。


俺との身長差はかなりあるはずなのに、なんだこいつの脅威の跳躍力は。


「このスケスケは俺んだッ!!」


「月、赤いの好きなの~ッ!!!」


本気混じりのスケスケの争奪戦。


その時、ふと思ったんだ。


「お前、これ欲しいのか?」


月はこくりと頷いた。


「月、赤いのだあい好き」


それは邪気のない可愛い笑顔で。


「じゃあさ、このスケスケやるから、お前の家で、倒れていたあいつらを手当てさせてくれよ」


懇願のような低姿勢になっちまったのは気に食わねえが、仕方がねえ。


「……くれるの?」


月は、純真な眼差しを向けてきた。


何だか――


俺の良心が痛む。


別に嘘ついているわけではねえけどよ、


こんな子供にスケスケだぞ?

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