あひるの仔に天使の羽根を
「ちょ、ちょっ…タンマってば!!!」
焦る煌の足下で拡がる亀裂が、魔方陣を構成する溝にまで届く。
2ヶ月前を思い出す。
紫堂の血と無縁な私だけが、唯一攻撃出来た魔方陣。
これも同じ類のものなのだろうか。
あの時のような、魔方陣上に環状に置かれた…意味ありげな支石群はないけれど、ここから発する瘴気はあの時となんら遜色はない。
陣を為す幾何学模様だけで、あの時のような瘴気は発生出来るのか。
あの石群は、儀式を盛り上げる唯の装飾だとは考え難くて。
「……石……石の…扉…」
此の地の地下の連結部にあった、あの扉。
闇の力でなければ動かせないあれは、出口の開閉以外に意味を持ち得たのではないか。
だとすれば。
「おい、どうした桜? 突然考え込んで」
「複数の魔方陣、複数の石の扉……全てが必然だとしたら、然るべき場所に位置しているということか? 理由は何だ?」
「?」
「魔方陣の瘴気の具合から言えば、藤姫が力を引き出した時程の威力はまるでないが、それでも素人ならあてられるだけの十分な瘴気はある。それが複数あるとすれば、広範囲に瘴気は渡っているはずだ。それでも平然と此処の住人は生きていて……いや、平然ではないか」
"混沌(カオス)"、"中間領域(メリス)"、"神格領域(ハリス)"。
それぞれの場所で、確かに狂気が渦巻いていた"違和感"を、私は感じていたのだから。
――桜。明日……何かが起こる。
玲様の言葉が蘇る。
――覚悟しておけ。
それは何か、まだ輪郭は掴めないけれど。