あひるの仔に天使の羽根を
「1度…地上に戻る」
「あ? じゃあ温室んとこに一旦戻……はあ!? 外気功で天井に穴ッッ!!? お前…随分面倒臭がりになったな……」
「誰が面倒臭がりだ!!! 時間のロスを省いているだけだッ!!!」
一喝した私は、横壁に飛び跳ねた足の反動を利用して、天井の穿孔に手をかけて身体をくるりと回転させると、そのまま建物内部に入る。
そこは須臾の棟にある、ピンクの部屋で。
「またここかよッ!!!」
憤る馬鹿蜜柑など完全無視した私は、私達を見つめる人形を見据えた。
私達を見つめる無機質な目――。
元より私は人形を愛でる趣味はなく、今までのテディベアは"黒"故に選んだもの。
人に愛情を強請るような、そんな媚びた眼差しは癇に障るだけで。
だけど、何だろう。
改めてよく見れば、此処の人形は"人形らしさ"がない気がする。
「煌、てめえはそこの人形を"愛玩"と思えるか?」
「あ?」
「いやに…自己主張をしているように思えないか?」
私の言葉は難解だったみたいで、煌の眉間の皺が深くなる。
「お前が何を感じてるのか判らねえけどよ、俺としちゃあ、此の部屋はあの女並みに気持ち悪くて反吐が出るってことだ。こんな嘘臭い装飾に固執せず、さっさと拷問部屋にでも改装した方がまだ自然っていうもんよ」
そう、固執――。
「こうして置いておくことに意味があるんだ。恐らく、この色も同じく」
「何の為に?」
――退行、か……?
玲様の声が蘇る。
「恐らく……時間の進行を遅らせるために」