あひるの仔に天使の羽根を

「はあ!?」


素っ頓狂の馬鹿蜜柑の声。


「時を遅らせるというより…"止める"方が意味が近い。玲様の話では、須臾は"美醜"に囚われ、だから櫂様が狙われたのではないかと。そこに真の愛情があるかどうかは甚だ疑問だ」


「美醜って……確かに俺は毛嫌いされてたけどよ、じゃあ何だ…櫂は……」


煌の顔に、すっと冷たいものが走り抜ける。


「……凄え……腹立つな」


意志的に抑えられた声音に、煌の剣呑な感情が垣間見える。


「その為に、芹霞が…俺達が…櫂と引き離されるっていうのかよ」


大丈夫だ。


この馬鹿蜜柑はまだ、櫂様に対しての親愛の情を捨ててはいない。


恋愛感情に身を崩し、全てを捨てて闇に沈みきったわけじゃない。


煌は大丈夫だ。



「無性に腹立たしいなあ、桜。あの女のせいで、何で俺達がこんな思いしないといけねえんだよ!!!」


そう、煌が人形が置かれた箪笥に蹴りを入れた時。



――ゴト。



沢山の人形が床に落ちた。



「え…? "ゴト"?」


その擬音語に疑念を持ったのは私だけではなかったらしく。


私達は、見た目以上の不可解な重い音をたてた、ふかふかな触り心地の人形を手にした。



何か…入ってる?



私は、白猫の人形の腹に躊躇いなく指を差込み、左右に引き裂いた。



「…人形だけどよー、お前本当容赦ねえよな」



ぼやく橙色を無視して。




そして防水処理が施された腹の内部より、綿に塗れて出てきたものは……



「……眼!!?」


それは……人間の眼球に他ならず。


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