あひるの仔に天使の羽根を
煌が引き攣った叫びを上げる。
私は次々に人形の腹を裂いていく。
「腐っているけど…これは耳!!? うげっ…顔のパーツ間違いねえよな!!? これは指か!? …これは何の"内臓"…!!? この肉は……って、俺色々想像しちまったじゃねえか!!! 何だこれら…なんでんなもん入ってるんだ!!?」
予想外の"異物"に、煌が若干動転気味だ。
私の脳裏に、今は亡き千歳の声が再生される。
――各務の愛の形は歪んでいるんです。
――それは昔から変わりない。
そして気づく。
人形が無くなった部屋の壁にある小さな穴。
これは――。
「煌!!! 櫂様の下へ!!!」
私は走った。
しかし、いつもの場所にも割り当てられた寝室にも櫂様の姿はなく。
まさかと思い、芹霞さんの部屋を開ければ、
「葉山~!!! 紫堂や師匠と会った!!?」
部屋には、青い顔をしてパソコンを操作する遠坂由香とイクミという名前の少女が居て。
私に助けを求めるような顔をしながらも、ノートパソコンのキーボードを叩く指先は神がかりのような猛速度で。
「ああ、くそっ。何でこんなに早いんだよ、こっちは師匠の補助(サポート)もあるってのに、2人がかりでやっとこかよ!!? って、今はそれより、神崎が」
「ああ!? 芹霞がどうしたって!!?」
「き、如月!!! 頼むからボクをパソコンから離すな!!!」
煌が遠坂由香の胸倉から手を離した途端、彼女は大急ぎでまたパソコンを打ち始めた。
「ああ、イクミ!!! 同時進行の"翻訳"の一部が解析できた。書き取って!!!
"峻厳と慈悲は均衡を保ち、彼の者に捧ぐ柱は玉を穿って大木と為す"
"大いなる智慧と理解の最果てにある勝利と栄光の王冠は、美しき王国の礎となる"」
今、此の部屋は戦場らしい。
本来ならば私も玲様もここで参戦していたはずなのだが、遠坂由香は文句を言わず玲様から受け継いだ仕事をこなしているようだ。