あひるの仔に天使の羽根を
 
「今だけは……お前にイイトコ譲ってやる。

お前のそんな焦る顔、初めて見させて貰ったからな」



それなのに――。



煌が拳を地面に打ちつけ、外気功を放つ。



地面が――割れた。




「早く行けッッッ!!!」




私は頷いて、その穴から地下に潜った。



馬鹿蜜柑。



あんな引き攣った顔で、無理やり笑いを作って。


そんなに嫌なら、言わなきゃいいのに。



だけど。


だからこその馬鹿蜜柑。


だからこそ、皆に愛される橙色。



狭量で愚かしくて、本当に苛々して仕方が無いけれど。


それでも。


いい奴なんだと思ってしまったことは、


私は言わないでおこうと思う。



絶対あの単純男、いい気になってしまうから。



――桜。僕は今夜……。


これから試練が訪れる。


――絶対不可欠な存在なんだ。



馬鹿蜜柑も、私も。



――だから…手に入れる為に僕は今夜……。



これは玲様の賭けなのだ。



――勝負に出るよ、どんなに蔑まれても。



私達配下に許されるのは、傍観者に徹すること。




どんな心抱えても、動いてはいけないこと。



ならばせめて今は――


己が心が動くまま、芹霞さんを迎えに行きたい。




この道が――


芹霞さんに続いていることを


私が信じる…私自身に祈った。
< 876 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop