あひるの仔に天使の羽根を
どうして俺じゃない?
どうして玲だ?
――だって君さ、オレに組み敷かれた時、呼んだよね?
頭に響くのは誰の声か。
――"玲"ってさ。
ずきん。
頭を襲う疝痛に俺は声を漏らして。
俺は――
欠けた記憶があるんじゃないだろうか。
そう思えるくらい、痛みの発生のタイミングは不可解で。
「……櫂!!?」
気づけば、片膝をついた玲が敵を地面に沈めて、俺を心配気に見上げていた。
「ああ、大丈夫だ」
俺は――
寄る敵すら自力で何とか出来ず、玲に助けられて。
俺の意味って何だ?
「じゃあ行こう」
玲が開いた入り口を促した。
「なあ、玲。
俺……何かおかしいだろうか」
思わずそう聞いてみてしまった。
「どうして?」
前方を歩きながら、振り返りもせず声が返る。
「大事なことを忘れている気がして」
「……櫂」
堅い声を出して、玲は立て止まる。
「お前さ……まさか――
好きになったんじゃないだろうね。
――芹霞のこと」