あひるの仔に天使の羽根を
 

呼吸が…止まってしまうくらいの動揺。


「ま、まさか……。

俺には須臾がいるんだし……」


この動揺を、玲に気づかせるな。


「………。そうだよね、お前は自分の幸せの為だけに、あれだけ芹霞に酷い仕打ちをして、そして置き土産にお前は僕に、芹霞と紫堂をくれたんだものね。まあ芹霞は、元々お前とはただの"幼馴染"なだけだったけどさ」


心臓に突き刺さる言葉。


呼吸も言葉も串刺しにしたその言葉に、俺は泣き出したい気分になった。


きっと玲には俺の心の揺れが判っている。


言い訳が許されるなら。


俺が須臾以外の女に心惹かれる予定はなかった。

俺の世界は須臾で、須臾しか居なくて。


芹霞とは――

付き合いが長すぎて、離れる場面を想定していなくて。


――ナゼ?


居なくなって初めて動く心があるなど、

須臾も芹霞も欲しいなんていう、

男としては唾棄すべき心が同時進行で走るなんて思っていなかったから。


そこまで俺が芹霞という幼馴染に執着があって、独占欲があったなんて知らずに居たから。


――ホントウニ?



俺が此処まで最低だと思わなかったんだ。


俺には須臾が居るのに。


玲と芹霞を――

くっつけなければよかったなんて後悔するなんて。


「そんなの……僕は認めないよ」


俺の心を見越したような声は、どこまでも冷たく。


「僕は今日……芹霞を抱くから」


今――何て?


鳶色の瞳は、突き刺すように鋭く。


「身も心も僕のものにする」





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