あひるの仔に天使の羽根を
足下がぐらぐら揺れ、俺は必死に崩れぬよう堪え忍ぶ。
頭を思い切り殴られたような打撃。
全身の血が引いていくような感覚。
浅い息。
早く打つ心臓。
過呼吸になりそうだ。
「それは……同意…か?」
苦しくて苦しくて。
意識がぶっ飛びそうだ。
「当たり前だ。僕達は…想い合っている」
その声は、俺の心を切り裂く。
――芹霞ちゃあああん!!
「い…い……んじゃ…ないか…?」
止めてくれ。
「大…切に……しろ…よ?」
芹霞に触れないでくれ。
芹霞はお前のものじゃない。
芹霞は――
「いいんだな?」
念を押すその低い声に。
芹霞は――
――バイバイ。
「俺は……須臾さえいればいい」
もう愛の言葉が向けられない相手。
それでも俺の慈しんだ愛は真実なんだと、それを全うするが己の愛の形だと、ただそれを証明したいが為に……
「幸せになれ。
俺の最後の言葉だ」
――芹霞ちゃあああん!!
笑った。
玲はそんな俺を、詰るように怒っているように…険しい顔でじっと見ていたが、やがて目を閉じ背を向けた。
「行くぞ」
駆けだした玲に続いて、俺も走った。
黒く続く廊下を。
俺の心のような闇の迷路を。
帰着が何処にあるのか判らぬ迷路を。