あひるの仔に天使の羽根を
硝子の向こうに居るのは、10人前後の男女。
狂気を宿した双眸。
血に塗れた身体。
尋常ではないその風貌は、俺と玲が今まで外で相手してきたような奴らに近いものがある。
いわば何かが"壊れた"人間達。
その中に芹霞は居て。
放心状態で座り込んでいる。
虚ろな表情をして、手にしているのは――
サバイバルナイフ?
真新しいものだ。
「こんなに早くやって来るとはね。全然引き留めてないじゃない蓮も榊さんも……いや、こちらの話。折角僕がわざわざ各務から連れてきたのにさ」
頬を膨らませて、拗ねた子供のように文句を言った。
「芹霞を連れたのは…お前か」
俺の声が知らず知らずに低くなる。
そして感情は昂ぶる。
"怒り"に。
「無駄だよ。そっちの部屋に入ってしまったら、最後の1人にならない限り、開かないことになっているんだ。折角だから傍観していけばいいよ。お姉さん、悪運だけは強いから。結局、生き残って勝ち進めたんだ」
硝子を拳で叩き付けても、風の力を持ってしても、びくともしない硝子が、此の世に存在するなんて信じられない。
こんなに近くに居て。
俺は芹霞が見えているのに、芹霞は俺をみていない。
硝子を叩いても、音すら届かない。
俺の声は届かないのか!!!