あひるの仔に天使の羽根を
「ようし、じゃあ少し興奮剤を上げる」
男がバチンと指を鳴らすと、突然硝子が黒くなって。
そう漆黒色に、奔る赤の線。
「さあ、次に目にするのは、お姉さん達のどんな姿だろうね? うふふふ、早く僕を倒さないといけないねえ?」
「相手は玲だけじゃない。俺もいる」
玲の真横に立った俺に、本当に嬉しそうな笑い声が響く。
「うふふふ。じゃあ僕、どっち相手しようかな。貴方はどっちがいい、榊さん?」
「君のお好きに、司狼くん」
背後から突如声がして。
この部屋に忍んでいたことも悟らせないその空気は、驚愕に価するけれど、それより俺が驚いたのは、
長い黒髪、暗紫色の瞳。
「お前は……各務の従医!!?」
白衣ではなく、暗紫色の神父服を着ているけれど、
桜を治療した、若い従医だったからだった。
「積もる話は後にして。まあ『気高き獅子』に話せる余裕があったらだけれどね。じゃあ始めるよ、とろとろ出来ないしね」
そして司狼と呼ばれた白服の男は、壁にあった赤いボタンを勢いよく押す。
「あ~あ~。聞こえるかな、諸君。2戦目にようこそ。さあ、また武器を用意しておいてあげたからね。好きなの選んで生き残ってね。時間は30分。30分後には真空状態になるから、その前までに勝負つけてね。じゃ!!」
そして俺達を見る。
にっこり笑う司狼。
隣の従医は意味ありげな笑いで俺を見ている。
そして――
「ゲームスタート!!!」
司狼が、不可侵の一定距離を
笑いながら飛び越えた。