あひるの仔に天使の羽根を

・破裂

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あたしは――

何処から何処に流されいくのか。


男の喉元に…運良く折れた彼の刃物が突き刺さり、血飛沫を上げての凄惨な自滅……そんな予想外の顛末に助けられたあたしは、腰を抜かしながらも密かに息をつく間も与えられずして、再び違う密封空間に連れられた。


あたしが死ぬまで、あの恐怖が繰り返されるのか。


これは地獄だ。


果てなく続く、地獄の中にあたしは居るんだ。


生きた人間が一緒なのは、安堵よりも恐懼を煽る。


これから何が行われるのか、あたしの本能は感じ取っている。


狂ってる…狂ってる。


場には意味不明な奇声と、服に付着した生臭い肉汁の臭いが充満し。


誰が強者で誰が弱者かを見定めているような、狂人達の眼差しが飛び交う。


あたしはその眼差しが向けられないよう、顔を隠すように俯いて、膝を手で抱えるようにして震えていた。


恐怖に、頭がおかしくなりそうだ。


全身の震えが止まらない。


その時司狼の声がして、乱暴に何かが投げ入れられた音がする。


がしゃがしゃとした耳障りな音。


そちらに目だけをやれば、銀や黒色に光る武器を漁る人間達。


攻撃力こそが我が身の最大の防御力になると、彼らは判っている。


あたしの手には、使われることか無かった小振りのサバイバルナイフ。


とてもじゃないけれど、皆が手にしている重々しくも凶々しいあんな武器に勝るような代物ではない。


思い返せば、いつもいつも。


あたしには、常に助けに来てくれる誰かが居て。


だからあたしは、安心して救出の瞬間を待てたけれど。


それが如何に恵まれた環境にあったのかなんて、深く考えたこともなく……それが当然の摂理のように、受け身でばかりで居たあたしへの当然の報いのような気がしてくる。

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