あひるの仔に天使の羽根を
 

いつもいつも、桜ちゃんは。


櫂や玲くんに従順で、その命に従って慌ただしく外を飛び回っていて。


家に居るときは大体煌とじゃれあっていて。


あたしとの接点は殆どなかった。


だから正直桜ちゃんを、他の3人程身近には感じたことはなかったけれど、それでもこうしていれば判る。


あたしと桜ちゃんの絆だってあったんだ。


いつもの面々ではないのは、今の状況が状況だけに……あたしは嫌われてしまったんじゃないだろうかとか色々邪推してしまうけれど、例えそうだとしても、桜ちゃんに見捨てられなかったことが何より嬉しくて。


やっぱりあたしは、弱い人間だ。


桜ちゃんにとって、どんな大男もどんな武器も問題ではなかったみたいで、桜ちゃんが裂岩糸というものを操れば、人間の頭くらい吹っ飛ばしそうな大斧も微塵切りになった。


見た目のごつさで武器を選んだらしい男は、己が頼る術を潰されて怯む…と思いきや、頑強な肉体で小柄な桜ちゃんに体当たりしてくる。


力でねじ伏せようとするのか。


だけど桜ちゃんの動きは迅速で、まるで瞬間移動のようにそこから消え、気づけば俯せで倒れる男の背に馬乗りをして、その首を糸で締め上げている。


やがて男がぐったりして動かなくなった直後……あたしの真横から、突然炎が頬を掠めて。


「ひゃああ!!?」


「芹霞さん!!?」


見れば、いつの間にやら火炎放射器を持った女が、白目で口から泡を吹いた…そんな"イッた"顔で奇声を上げて。


何とか仰け反って炎を回避出来たあたしは、桜ちゃんに腕を掴まれ宙高く放り投げられた。


あたしが今までいたと思われる場所には再度の火炎と……反対側からは水の龍。


「り、龍!!?」


まるでCGのように…どう見ても龍の姿を持つ水が、火炎放射器の炎を食らうと、そのまま女に噛付いた。


女の絶叫。

ばりばりという何かが砕かれる音。


そんなものに気を取られていたあたしは、ようやく下降し始めたあたしに向けられて、銃弾が発射されていたことに気づかなかった。


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