あひるの仔に天使の羽根を
「芹霞さん……それ、下さい」
突然の桜ちゃんの声。
「これ? ナイフ?」
こっくりと桜ちゃんは頷いた。
「貴方が持つべきものではない」
それは堅い表情で。
「血に塗れるのは、僕だけで十分です」
桜ちゃんは優しい。
無表情で、非情だって言われても…温かさはある。
「ねえ芹霞さん。気づいていますか? ここの酸素……少なくなっています」
そういえば、息苦しい……ような。
そう思ってしまえば、かなり息苦しく感じてきた。
部屋の中にはもう数人残すのみだ。
今、彼らの相対者はあたし達ではないけれど、何だか動きが辛そうだ。
「芹霞さん僕……」
突然桜ちゃんは――
「男に……
戻ってもいいですか?」
震える声でそう言って、大きい目をくりくりと動かした。